2017-08

アルジェリアテロで思い出す「若王子事件」の秘話

 今月号の中央公論「森功の企業事件簿」は、フィリピンの三井物産マニラ支店で起きた若王子信行支店長の人質事件について書きました。事件の構造はアルジェリアの事件と同じで、テロリストたちの目的は最終的に身代金要求でした。以下、抜粋。

一九八六年十一月、当時の若王子信行マニラ支店長が平日のゴルフ帰りに何者かに拉致され、身代金を要求された事件だ。
 支店長の右手中指がまるで切断されているかのように撮られた衝撃的な写真が、実行犯グループから送りつけられ、日本中が騒然とした。若王子支店長が解放されたのは、発生から百三十七日後。実に四カ月月半も経過した八七年三月三十一日のことだ。その後、犯行グループと目されたフィリピン共産ゲリラ「新人民軍(NPA)」の幹部をはじめ、十一人の容疑者がフィリピン国家警察軍犯罪捜査局(CIS)に逮捕された。だが、犯行を自白した者は皆無、事件はそのまま幕を閉じた。(中略)

 その若王子事件からおよそ二十年後、筆者は改めて関係者に取材し、未公表資料などを入手したことがある。たとえば犯行グループから三井物産や日本政府に送りつけられた脅迫状などもその一つだ。そこには意外な事実が隠されていた。実は初めに身代金の具体的な要求があったのは、誘拐からわずか四日目の十一月十九日。犯行グループから三井物産マニラ支店へ届いた最初の書状には、こう書かれていた。
〈まず十一月二十一日と二十二日に運転手募集の広告を出せ。それから十二月一日と二日には秘書募集の広告だ。これは金の用意ができ、受け渡しが可能になった、というサインだ。身代金の受け渡し方法はあとで指示する。金の受領七日後、若王子を釈放する〉
 つまり四カ月半という誘拐事件の初めの十日間で、すでに身代金受け渡し交渉ができつつあったのである。

 今回のアルジェリアの事件は人質交渉に入る前に大量の犠牲者が出て、海外の事業ではあらゆる危険性を考慮しなければならないと実感させられました。
 なお、「森功の企業事件簿」は来月から企業に限らず社会に目を向けるべく、衣替えします。
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コメント

一見、若王子さんは、手錠で身体を拘束されていたような写真が報道されましたが、実際は、長期に手錠をはめられていたわけでは、なく身代金目的の偽装写真だったとの記憶がございます。
せっかく助かった命を病にかかり日本で落すとは、人生とは予測の出来ないドラマですね。

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森功

Author:森功
福岡県出身のノンフィクションライター。08年「ヤメ検」09年「同和と銀行」(ともに月刊現代)の両記事で2年連続「雑誌ジャーナリズム賞作品賞」受賞。主な著作は「サラリーマン政商」(講談社)、「黒い看護婦」「ヤメ検」(ともに新潮文庫)、「許永中」「同和と銀行」(講談+α文庫)、「血税空港」「腐った翼」(幻冬舎)、「泥のカネ」(文藝春秋社)、「狡猾の人――防衛省を食い物にした小物高級官僚の大罪」(幻冬舎)、「なぜ院長は『逃亡犯』にされたのか――見捨てられた原発直下『双葉病院』恐怖の7日間」、「大阪府警暴力団刑事『祝井十吾』の事件簿」(講談社)、「平成経済事件の怪物たち」(文春新書)、「紛争解決人 世界の果てでテロリストと闘う」(幻冬舎)、「現代日本9の暗闇」(廣済堂出版)、「日本を壊す政商 パソナ南部靖之の政・官・芸能人脈」(文藝春秋)、「総理の影 菅義偉の正体」(小学館)など。最新刊は「日本の暗黒事件」(新潮新書)

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