2017-10

中国VSフィリピン「南シナ海の日本の教訓」

 今月号の文藝春秋に中国の南シナ海問題を寄稿しました。以下、冒頭。

「中国の船が猛スピードでこっちに迫ってきた時は、たまげたよ。もう、こんなになっちゃった……」
 浜辺で出会った漁師は、股間を押さえてへたり込んだ。五十四歳のマリオ・フォルネスという。灼熱の太陽にこんがり焼けた顔は、いかにも海の男といった風情だ。ときおり見せる笑顔に、妙に愛嬌がある。真っ青な海を背にし、自分自身の船の脇腹を叩きながら、大きなジェスチャーを交えて語り始めた。
「四月六日の昼過ぎだったな。いつものように俺たちが漁をしていると、そこへ大型のコーストガード(沿岸警備艇)が八隻も現れたんだ。と思ったら、そのあたりから小型のスピードボート(高速艇)が、こっちにものすごいスピードで近づいてきた。見ると、甲板に立っている奴は、こんな具合に肩からマシンガンをぶら下げてる。こちらに向けて銃を構え、『出ていけ、出ていけ』と大声で叫ぶんだよ。あんなの初めてだから、腰が抜けるかと思ったよ」
 フォルネスは、フィリピン・ルソン島のマシンロックという南シナ海に面した漁村で生まれ育った。首都マニラから北西に向け直線距離で三百キロ、自動車なら優に六時間ほどかかる人口五万一千人の小さな市だ。
マシンロック市は、南シナ海に浮かぶスカボロー礁などいくつかの島の所有権を持つ。スカボロー礁はマシンロックの西二百二十キロ位置する。
サンゴに囲まれたスカボロー礁は、水深三百五十メートルの海底山が水面に露出した環礁である。レッドロブスターやラプラプ、観賞用の熱帯魚といった高級魚貝類が豊富に獲れる。昔からフォリピンの漁師たちは、ここで何日も船を停泊しながら、魚を獲ってきた優良な猟場だ。漁船だとまる一日ほどかかるが、マシンロックのフォルネスや近隣のパンガシナという町の漁師たちは、この豊かで澄んだ南の海の恩恵にあずかり、暮らしを紡いできた。
いわばどこの国にでもありそうな地元の漁師たちの生活だ。その平穏な暮らしをにわかに脅かしているのが、南シナ海における中国とフィリピンの領海紛争である。
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森功

Author:森功
福岡県出身のノンフィクションライター。08年「ヤメ検」09年「同和と銀行」(ともに月刊現代)の両記事で2年連続「雑誌ジャーナリズム賞作品賞」受賞。主な著作は「サラリーマン政商」(講談社)、「黒い看護婦」「ヤメ検」(ともに新潮文庫)、「許永中」「同和と銀行」(講談+α文庫)、「血税空港」「腐った翼」(幻冬舎)、「泥のカネ」(文藝春秋社)、「狡猾の人――防衛省を食い物にした小物高級官僚の大罪」(幻冬舎)、「なぜ院長は『逃亡犯』にされたのか――見捨てられた原発直下『双葉病院』恐怖の7日間」、「大阪府警暴力団刑事『祝井十吾』の事件簿」(講談社)、「平成経済事件の怪物たち」(文春新書)、「紛争解決人 世界の果てでテロリストと闘う」(幻冬舎)、「現代日本9の暗闇」(廣済堂出版)、「日本を壊す政商 パソナ南部靖之の政・官・芸能人脈」(文藝春秋)、「総理の影 菅義偉の正体」(小学館)など。最新刊は「日本の暗黒事件」(新潮新書)

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